ドラキュラさまの好きなモノ〜主人とメイドの恋煩い〜
第9章 社交界の華
リヒ様はいつにも増して機嫌が悪そうに見えた。
ハートランド様の言葉全てに噛み付いているように見える。
人間の私からしたら彼の言葉はかなり気にはなるが、人間とドラキュラ様の格差は理解している。
事実、ブラッディ・ドールもブラッディ・ローズもあまり大差なく存在している。
特に孤児を連れて来て血を吸ったり、チャームで魅了して若い女の子の血を吸うなんて日常茶飯事のはず。
酷いドラキュラの場合、死ぬまで血を吸い尽くしてしまったり、監禁して性の奴隷にするなんて事件もあるくらいだ。
ドラキュラであるリヒ様にとって、ハートランド様の考え方は珍しい訳ではないはずだった。
なんだからしくない。
「君がそんなに人間博愛主義者だとは思わなかったよ。
…ああそうか。マキアちゃんのためかな?」
「!!」
私はリヒ様を見た。
リヒ様は一瞬目を見開き、そしてハートランド様を睨みつけた。
「マキアちゃんも孤児だったね。
産まれてすぐ路地裏に捨てられていたところを、伯爵が拾ったそうじゃないか。」
私は心臓がドクンと脈打つのを感じた。
ハートランド様は慈しむような微笑みを浮かべている。
私の幼少の記憶はあまりない。
けれどリヒ様が救ってくれた事は理解していた。
雨の降る日、寒くて怖かった。
そんな時間が永遠に続くように思えて怖かった。
怖くて怖くて泣いた。ずっと泣いていた。
…そこに声が聞こえた。
美しい声が。
なんて言っていたのか、どんな顔をしていたのかは覚えていない。
そして優しい手に抱かれた。
心地よかった…。
それだけは覚えている。