ドラキュラさまの好きなモノ〜主人とメイドの恋煩い〜
第9章 社交界の華
「いえ…お気持ちだけ有り難く頂戴致しますので…」
私は罪悪感を感じながら、丁重にお断りした。
「気持ちだけでは困るよ…僕にとって君はレディなんだ。
レディファーストは僕のポリシーだよ。
それはブラッディ・ローズでも同じ事だよ。」
バンパイアでは珍しい考え方をする人だ。
使用人であるメイドにまで、紳士に振る舞ってくださるなんて。
でも、私はそれに甘えるわけにはいかない。
私は困ってリヒ様を伺った。
「はぁ…なにがポリシーだ。ただの強引な男じゃないか…」
リヒ様はため息をつく。
「マキア座りな。多分あの男はどんなことをしてでも君を座らせる気だ。」
リヒ様が目で席を促す。
「さすがはリヒテンシュタイン君。もう僕のことを分かってくれているんだね!」
ハートランド様は嬉しそうに笑った。
その顔がなんとも可愛らしく見えてしまった。
不思議な人だ…。
私は失礼します。と言い、席に座らせていただいた。
「さぁ二人とも、お客様にお食事の用意をしてあげて。」
「「はい」」
私が席に着くと同時に、ハートランド様はテディとビスクに声をかけた。
そして二人は真顔のまま答える。
二人は一度部屋を出ると直ぐに銀のトレイを持って現れた。
テディのトレイには食前酒のシャンパンが入ったボトルと3脚のグラスが乗っていた。
ビスクのトレイには前菜が盛られた大きなお皿が3つ。
どちらも二人の身体には重そうに見えた。
リヒ様の近くまで来たテディは、グラスを置こうとするが、左手でトレイを支えきれずに腕がぷるぷると震えていた。
「…いいよ。ありがとう。」
リヒ様は優しく囁くと、ボトルとグラスをトレイから取り上げた。
「……」
テディは真顔のままリヒ様を見上げて、何か言いたげに見つめていた。
「ああ、ゴメンねリヒテンシュタイン君
彼女にはちょっと重かったようだ。」
ハートランド様は困ったように笑った。
「……ドールに給仕をさせるからだろう?」
「!!」
「…」
マキアは驚き、二人を凝視した。