ドラキュラさまの好きなモノ〜主人とメイドの恋煩い〜
第9章 社交界の華
ハートランド様の屋敷に着くと、門の前に1人の女性が立っていた。
「…リヒテンシュタイン様ですね…
お待ち申し上げておりました…
私はハートランド様付き、
メイドのカーディナルと申します…
遠路遥々ようこそお越しくださいました…
どうぞご案内させていただきます…」
カーディナルさんの声は静かで、
その出で立ちは『儚い』という言葉がとても似合う。
強い日光を当てたら消えてしまうのではないかとマキアが思ってしまうほど。
カーディナルさんの漆黒の髪は美しく、
腰のあたりまでまっすぐ伸びていた。
透き通るような白い肌との対比が、両者をより際立てているようだった。
「ありがとうカーディナル。
よろしくね。」
リヒ様が答えると、カーディナルさんは恭しくお辞儀をした。
「初めまして。
私はリヒテンシュタイン様付きのメイド、
マキアと申します。
カーディナルさん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。」
マキアも丁寧にお辞儀をした。
カーディナルさんは無言で腰を折り、
礼を返してくれた。
黒真珠のような艶やかで大きい瞳は、長い睫毛に縁取られている。
睫毛が落とす黒い影に隠され、瞳の表情がわかりづらいが、高潔さが感じられた。
まさに鮮やかな赤薔薇の品種、カーディナルが似合う美女だった。
中に通されると、広間には豪華な絨毯と壁紙、高価そうな絵画や置物が沢山並べられており、美術館のようだった。
マキアは圧倒されてキョロキョロと見渡してしまう。
「マキア、口が開いてる。」
「えっ!」
マキアは慌てて口を抑えて赤面した。
(田舎者丸出し…!)
リヒ様は前を見ながらクスクス笑った。
「す、すごいですね!
ハートランド様は美術品にお詳しいのですね。」
マキアはカーディナルさんに聞いてみた。
「……」
「?」
カーディナルさんは無言でマキアを見つめた。
うっすらと笑った様な気がしたが、すぐ前を向いてしまった。
え?私無視された?
マキアが疑問に思っていると、
奥の一際豪華な扉の前に止まった。
「こちらでハートランド様がお待ちです。」
カーディナルはまた恭しく礼をすると、ゆっくりと扉を開いた。