ドラキュラさまの好きなモノ〜主人とメイドの恋煩い〜
第9章 社交界の華
あの後、私はマキアが泣き疲れるまで抱きしめていた。
落ち着いたらその先をしようとも思ったけど、
マキアはいつの間にか泣き疲れて寝てしまった。
正直、置いていかれたような感じがしてちょっと腹が立ったけど、
あどけない寝顔を見たら愛しい気持ちで満たされてしまった。
「…しょうがないなマキアは。」
彼女の髪を何度かすいて頬を撫でると、
お姫様だっこで寝室へ運ぶ。
自分の身体に閉じ込めるように抱き直すと、
マキアはうっすら笑って顔をすり寄せてきた。
「…はぁ~…無意識でこういう事するからこの子は…」
衝動が灯りそうになるのを抑えて、静かにベッドに寝かせる。
「おやすみ、マキア。」
ひたいにチュッとキスをして、静かに部屋を出た。
翌日マキアは、あたふたしながら私に謝ってきり、
所在なさげに真っ赤になったり、少し情緒不安定ぎみだった。
泣きじゃくってしまったのが恥ずかしかったらしい。
そんなマキアが可愛くて、
私は何度も泣き顔のことをからかってしまった。
「もう忘れてください!」
「なんで?とっても可愛かったよマキアの泣き顔。
潤んだ瞳とか、濡れた睫毛とか、赤い頬とか…」
「もーぅ!リヒ様っ!」
「あはは」
それにしてもあの時、マキアにはチャームが効かなかった。
チャームを破ったと言った方が正しいのかもしれない。
もちろん本気でかけたわけではないが、
頑なな意思を解放するくらいには十分なはずだった。
マキアのブラッディ・ローズとしての誇りと、
私への忠誠心がそうさせたのだとすれば、
それは喜ぶべきことかもしれないが…なんだか複雑だった。
マキアにチャームをかけてどうこうするつもりなど毛頭ないが、
まさかこの私のチャームを破る人間がいるなんて驚き以外の何者でもなかった。
(マキアって意外とすごいのかな?)
なんて、苦笑いをしてマキアを見つめた。