ドラキュラさまの好きなモノ〜主人とメイドの恋煩い〜
第8章 妬きもち
マキアが恥ずかしさに震えていると、
リヒ様の静かな声が響いた。
「ねぇ、マキア…あの時どう思った?」
「え…っ?」
その目には先ほどの挑発的な色はなく、
少し寂しさを含んだような、真剣な眼差しだった。
「リヒ…様?」
リヒ様の瞳が揺れているように、
マキアの目には映った。
その切ない表情に、マキアの胸はきゅんと締め付けられるようだった。
「あのとき…とは?」
マキアはリヒ様を見上げて、言葉を絞り出すように囁いた。
「…私とエロイーズが…唇を重ねようとした時…」
リヒ様は長い銀糸の睫毛をわずかに伏せて、
マキアから目をそらした。
マキアの胸はキュッと痛くなった。
あのシーンが鮮明に思い出される。
リヒ様の方からロイーズ様に顔を近づけていた…
その様はマキアの目にスローモーションのように映った
リヒ様の目は彼女の唇にくぎづけで、紫水晶の瞳は熱を帯びているようだった
美しい二人の、情事の前触れのような仕草
マキアは立ち尽くすことしか出来なかった…
そして、圧倒的な美しさに憧憬し、淫靡な空間に動揺しながらも、
胸に刺さったトゲの痛みには、気付かずにはいられなかった。
でも…
「…その…びっくり…しました…」
言えない。
嫉妬したなんて。
傷付いたなんて。
「それだけ?」
リヒ様は目を細めて聞き返す。
「…はい…。」
だって。私はメイドだから。
妬きもちを灼くだなんて許されない。
悲しく思うなんておこがましい。
「……本当に?」
リヒ様は眉根をわずかにひそめ、顔をゆっくりと近づける。
「っ!」
その瞳にはわずかな苛立ちの色が滲んでいたが、
その時マキアはまったく気が付いていなかった。