ドラキュラさまの好きなモノ〜主人とメイドの恋煩い〜
第6章 ラブレター
ふぅと溜め息をつくと、
今度は机の端に置いてある黒い封書に目をやった。
それはもう開けられており、
何日かそこに置かれているものだった。
「………」
とても鋭く、冷めた目で黒い封書を見つめる。
「あいつにマキアは渡さない。」
静かな部屋で、誰に向けるでもなくつぶやいた。
黒い封書が届いたのは1週間前。
差出人はディクシー派の幹部、ハートランド。
彼はバンパイア界でも有名な、社交界の華だった。
その容姿も物腰も教養も、
すべてがバンパイア達を魅了していた。
彼の熱狂的なファンも多く、女のバンパイアはいつも彼をモノにしようと争っている。
そんな彼からの一通の手紙。
『リヒテン・シュタイン君
君が僕たちの仲間になってくれるなら大歓迎だよ。
返事はすぐでなくてもいい。
色んな人からお誘いがある君だもの、
色々と考えることもあるだろうね。
僕は君が仲間になってくれることを信じて、
気長に待っているよ。
でももし、僕たちの仲間になってくれなかったら、
そうだね、とても寂しいね。
寂しいから、君の小鳥が欲しくなってしまうかもしれない。
僕も、可愛いものと美味しいものは大好きだからね。
それではまた手紙を書くよ。
愛しい君へ』
「したたかな狐め…」
ギシっと背もたれにもたれかかり、天井を仰ぐ。
メイドひとりがドラキュラの代わりになるはずがない。
明らかに分かっている。
これはただの脅迫だ。
バンパイアも魅了するバンパイアだ。
人間の小娘なんて、チャームを使わずともモノにしてしまうだろう。
優しい文章と綺麗な文字で、
ドス黒いことを言ってのける社交界の華。
ひとくせもふたくせもありそうで、げんなりする。
「さてと…どちらから会おうか…」
白薔薇の砂糖漬けを一つ、口に入れ
薔薇の香りの吐息を吐いた。