ドラキュラさまの好きなモノ〜主人とメイドの恋煩い〜
第6章 ラブレター
自室に戻ると、大量の“お誘い”の手紙に目を通す。
ネル派からは、好意的な内容が多かった。
それもそのはずで、両親がネル派なら当然その息子も仲間だろう。
と思っているドラキュラが大半だった。
かなり近しい友人や、両親伝いの知り合いからは
『お前もそろそろ腰を据えろ』とか
『いつまでも親御さん泣かせるな』など
お節介極まりない内容も多かったが。
ふと赤い封書が気になって手に取った。
中を開けて、舌打ちをした。
それはいくつもの“お誘い”の手紙の一つだったが、
他とは明らかに異なっていた。
「もう“誘惑”か。」
便箋からはクラクラする香りが広がり、目をしかめた。
「マキアの血を飲む前だったら、ちょっと危なかったかもね。」
それは媚薬が含まれた香りで、
差出人に心が動くような呪いがかけられていた。
「エロイーズか…。さすが呪術に長けたレディはやることが陰湿だね。」
エロイーズはディクシー派きっての呪術師だった。
占術や催眠術なども得意で、
人間を集団で狩ってくることがあった。
彼女は妖艶な美貌の持ち主としても有名だ。
媚薬の力も相まって、彼女には崇拝者が多い。
手紙には、真っ赤な口紅で
『リヒテンシュタイン様
私をあげるから、あなたをちょーだい。
近いうちに遊びに行くわ♡』
とだけ書かれていた。
「いらないんだけど。。。」
眉間にシワを寄せてつぶやくとパチンと指を鳴らした。
便箋は青い炎に包まれて消えた。