ドラキュラさまの好きなモノ〜主人とメイドの恋煩い〜
第4章 色男なパパと艶女なママ
私が驚いているのもかまわずに、
リヒ様は静かに口を開いた。
「で、如何な用件でいらしたのかな?」
アレイン様とローズレット様は一瞬見つめ合って微笑んだ後、
真剣な表情になった。
「ガリリアーネが死んだ。」
マキアは驚き、ビクッと身を固めた。
リヒ様は私の肩を強く抱いてくれた。
「ディクシー派は喜んでいるよ。
しかしこれでは均衡が崩れる。
俺が何を言いたいのか、解るかな?」
一瞬の沈黙の後、
リヒ様は溜め息をついた。
「生憎だけど、クイーンの後釜なんてまっぴらだよ。
私は貴女達と親子だけど、ネル派じゃない。
永久中立だ。
それは今でも変らない。」
今度は長い沈黙が部屋を満たした。
息も出来ない緊迫した空気に、
マキアの体は冷たくなっていた。
バンパイア界は、最も古い7つの血筋が大きな力を持っている。
その中でも、二つの派閥に別れている。
バランスをとるために、権力を二分化しているのだ。
便宜上は。
リンジー・ネル様率いる“ネル派”と、
ゴードン・ディクシー様率いる“ディクシー派”。
ちなみにエミリの主人であるエドワール・ハドウィル様は、
リヒ様のご両親と同じネル派だ。
両派は表立って抗争をしている訳ではないのだが、
マキア達ブラッディ・ローズには到底与り知れない、
ドロドロとした問題や思惑があるのは、
少なからず感じていた。
ガリリアーネ様は、
最も古い7つの血筋のうちのお一人で、
ネル派最年長の御方だった。
私なんかはお目にかかった事はないが、
それはそれは美しく、厳格な方だったらしい。
その立ち振る舞いや容姿から、
敬意を込めて“クイーン”と呼ばれていた。
ガリリアーネ様がお亡くなりになられた。
“最も古い7つの血筋”の方が亡くなられるなんて…。
バンパイアの寿命は永遠ではない。いつかは尽きる。
しかし永遠のように長い。
マキアは自分が生きているうちに、
バンパイアが寿命で死ぬなんて思ってもいなかった。