第4章 in THE TRAIN
「電車、来たよ。」
私が中学時代に思いを馳せている間に、電車は来たようです。
彼は、電車を待つ間に昼休みに見たときと同じ文庫本を読んでいたようです。
雨上がりの夕暮れ時の明るい光が革製のブックカバーに少し反射していて、綺麗でした。
平日の夕方の電車は、所謂満員電車というやつでしょうか。人がぎゅうぎゅうとひしめき合っています。
ふいに雪ノ下先輩に手首を掴まれました。
雪ノ下先輩は、私を電車の壁の方へ引っ張っりました。
「この電車さ、たまにだけど、痴漢とか出るから。あんまり無防備にしてるとダメだよー」
初めて聞いた時と同じ優しさを帯びた声で、
昼休みに見たようなくしゃっとした笑顔で、
彼はまた私を護ろうとしてくれました。
きっと、お人好しなんだろう。
きっと、女の子にモテるんだろう。
私とは、違う種類の人間なんだろう。
無意識にも、こんなことを感じてしまう。
そんな自分が嫌になります。
彼は善意で、本当に清い心で、こんな私にもこんなに気を使ってくれるているのでしょう。
…私ならこんな風にはできない。
言いようのない劣等感にも似た憧れを胸に、私と彼は電車に揺られました。