第4章 転
目を開くと清光は布団の中に横たわっていた。
吸い込んだ冬の空気は冷たく肺を満たし、"あの日"へ戻って来たんだとひしひしと実感した。
隣を見ると同室の布団の膨らみが穏やかな寝息を立てていた。
「…………」
二週間ぶりの再開に、思わずその名前を呼んでしまいそうになり、唇を噛みしめる。
ここへ来た理由を忘れた訳ではない。
清光は物音を立てない様に起き上がり、枕元に置いてある自身の剣を取る。
通常の出陣と違い、直近へのタイムリープだと精神だけがその時の身体に乗り移る様で、ふわふわとした感覚が抜けきらない。
まだ身体と精神が完全に馴染まないようで、思い通りに身体が動かせず掴んだ剣を取り落としそうになる。
「……安定」
しっかりと逆手で握り締めた刀を規則的に上下する彼の胸に向けて静かに突き立てた。
「ぐあぁ!!」
心臓を貫いたつもりだったが、僅かな殺気を感じ取り目を覚ました安定が身をよじらせた為、攻撃は急所から大きく外れてしまった。
傷を庇いながら起き上がった安定が枕元の剣に手を伸ばす。
反撃を阻止する為、ふらつく足で安定の命とも言える彼の剣を蹴り飛ばした。
遥か後方、障子の方へ滑るように転がった刀を拾うには、どうしたって清光に背を向けなければならない。
安定にとってはまさに絶体絶命と言えるだろう。
昨日まで笑い合ってた仲間に刃を向けられ、安定は困惑と恐怖が混ざった何とも言えない顔をしていた。
「き……きよ、みつ……なんで、?」
「今お前を殺さないと、みんな死ぬんだ!」
刀を構え直す。次の一撃で確実に殺せるように、攻撃に特化した上段の構えで。
「何言ってるんだ、清光!落ちつけって!」
振り下ろされた刀は安定が投げた枕を両断する。
中に詰まっていた蕎麦殼が土砂降りの雨のような音を立てて部屋に散乱する。
「オイ、何があった!?清光、安定、無事か?」
隣の部屋から和泉守兼定の慌てた声が聞こえてくる。
時間が無い。