第5章 結
「池田屋に第一部隊を出陣させた後、主はこっそり僕の事も池田屋へ送ったんです。大和守さんを守るようにって。加州さんが大和守さんに襲い掛かった事件で、主は加州さんが時を遡っていることに気付いたと言っていました」
欠けていたピースが埋められていくように、清光の中で燻っていた全てが腑に落ちていった。
「僕は隠れて大和守さんと鉢合わせしそうになった攘夷志士を気絶させました。きっともう一つの未来ではあの志士達と戦った事で歴史が変わってしまったんですよね」
「……そっか」
清光は肯定も否定もしなかったが、少し間を開けてただ一言「ありがとう」と呟いた。
「……僕の闇討ちが、復讐以外に役立つなんて思わなかった」
少し照れたように俯く小夜左文字は顕現した頃と比べると幾分か表情や雰囲気が柔らかくなったように感じられた。これも主のおかげなのかもと清光は思う。
「お小夜、どこですか。出掛ける支度をして下さい」
再び二人に訪れた沈黙の向こうから、宗三左文字の声が聞こえてきた。
「加州さん……兄さん達を、本丸の皆を守ってくれてありがとう」
それだけ言い残すと、小夜左文字は猫のように機敏な動きでひょこっと立ち上がり、癖なのか足音を殺したまま去っていった。
「あ、清光ー!」
そして、何も知らない呑気な声が清光を呼ぶ。
「皆でよろず屋に花見の買い出し行くんだけど、清光も行くよね?」
春の風は暖かく、丘の上を見渡せば万葉桜では早くも飲ん兵衛達により宴会が始まっているようだった。
今日は絶好の花見日和。
ー 了 ー