第1章 I (can not) see you.(及川徹)
俺はいま、この世界の誰よりも幸せなはずなのに。
ほら、また。
苦しくなる。
好き、って、思うたびに。
怖いんだ。
彼女が指輪の贈り主をまだ愛しているんじゃないかって。
だから、俺との身体以上の関係を望まないんじゃないかって。
怖くて、だから、いつしか好きと思うことさえ苦しくなって。こうして何も言えずに怯えてばかりいる俺がいる。
情けなくて嫌になる、ほんとに。
「……やっ、あ、……だめっ」
「駄目じゃない。逃げないの、ほら」
欲に目が眩んだ振りをすれば、少しは楽になるんじゃないかと思った。
自分の弱いとこを誤魔化して、本当の気持ちに蓋をして。
しとどに濡れたそこへ指を滑らせて「──もうこんなにとろとろ」余裕ありげに笑んでみせる。
つぷ、と埋ずめる我欲の尖端。
「あっ、入、……っん、きもち、い」
なんとも色香溢れる声が鼓膜を揺らした。
それだけで爆ぜてしまいそうになるから、惚れた弱みってのは怖いのだ。
本当に出ちゃうから、これ以上かわいい声を出さないでほしい。
危うく達しかけた自身を宥めて、どうにか抑えつけて、俺は再度奥を目指すことにした。