第6章 そういうの柄じゃないので(花巻貴大)
彼女の肩を抱いたままエレベーターに乗り、ごっこ遊びに興じながら三階へ昇って、部屋に着くなり押し倒してキスをする。
安っぽいベッドが悲鳴をあげた。
シーツの白に、散らばるプラチナ。
「……っん、……ぅ」
口付けの隙間から漏れる声は意外にも甘やかな。「いい声出すじゃん」なんつって、それらしいことを口にしてみる。
啄むように唇を食んで、それから深く舌を絡めて。
キスの傍ら、下腹部から胸に向かって手を這わせれば、細く華奢な腰がびくんと跳ねた。
やたらふわふわしたセーターが静電気を起こしてるけど、とりあえずそれは無視。
服を捲りあげ露出させる柔肌。
ホックを外す時間すら惜しくてブラをずらすと、小振りではあるが綺麗な乳房が顔を覗かせる。
「っ、はなま、き、」
「んー、貴大って呼んでくれたらもっと燃えんだけどなァ」
努めて軽く乞うてみた。
愛撫は、したままで。
俺を下の名前で呼ぶのはあいつだけだから、どうせ忘れるなら全部忘れたくて。だから。
「……たか、ひろ」
「もっかい」
「……っ貴大」
忘れさせてよ。
あいつの声、あいつが俺を呼ぶ声。ツンとした横顔で笑んでみせて、それから『貴大』って、柔らかく呼ぶんだ。
全部消して、塗りかえて。
今だけでいい。少しでいいから。