第6章 そういうの柄じゃないので(花巻貴大)
こんなときまで、あいつのことばかり。忘れようとすればするほど意識が占領されていく。
俺は、なにをこんな。
実らない恋に必死こいてんだか。
「──……ッ」
チ、と奥のほうで舌が鳴った。
つくづく嫌気が差した。
「やっ、貴、……っ花巻、ちょっと待」
「なに、舐められんの嫌い?」
「……っきらいじゃ、ないけど」
胸への愛撫もそこそこに下肢へ移動しようとした俺を、彼女が引き止める。
制止されたことで視線がぶつかった。
ちゃんと苗字呼びに戻るとか、律儀かよ。可笑しなやつ。そんなことをぼんやりと考える。心ここに在らずな俺を見て、閉口する彼女。
あ、これマズいやつだ。
このままじゃ場がシラケちまう。
「あー、そういうことな」
「へ? っわ、ちょ、何」
「暴れんなって危ねえから。はい、ちゃんと掴まって。お風呂でキレイキレイしましょうねー」
お粗末な男に成り下がる寸前でテンションを引っ張りあげた俺は、彼女の身体をひょいと抱えてバスルームに向かった。
一夜とはいえ、情事は情事。
ホテルまで来ておいて女を満足させずに帰っただなんて、そんな黒歴史は作りたくないってのが本音である。
我ながら惰弱な理由だと思うけど、男なんて大体皆そんなもんだ。たぶん。