第6章 そういうの柄じゃないので(花巻貴大)
そこから先は、ずるずると。
駅近の公園で互いの近況を話してるうちに、あれよあれよという間にそういう雰囲気になって。
「ホテル行こーよ、外寒いし」
まるで飯にでも誘うかのような軽やかさで彼女が言うもんだから、俺はちょっと面食らって小さく笑った。
なんか、久々に笑った気がする。
「へえ、お前もしたんだ。失恋」
「そ、浮気されたの。ほんと最低」
「武士は相身互い、ってか」
「傷の舐め合いとも言うよね」
ホテルへの道中、交わす会話はどれも短かった。
上辺だけの実も心もない会話だ。
けど、それがひどく心地好い。
互いに深くは詮索せず、一定のラインより先には踏みこまない。干渉しない。
俺は、俺の。
彼女は、彼女の。
足りない部分を埋めたいだけ。寂しさを、苦しさを、忘れさせてほしいだけ。これ以上ない利害の一致だ。
今だけでいいんだよ。
偽物でいいから、愛が欲しい。