第6章 そういうの柄じゃないので(花巻貴大)
食った気のしない夕飯を終えて、居ても立ってもいられず家を飛び出したのはついさっきのこと。
『コンビニ行ってくるわ』
とかなんとか言いつつ出てきたけど、実際は当て所なく歩くだけ。
のたくたと、ひとりの夜道。
仰いだ空はあまりにも暗い。
「わー、花巻じゃん。久しぶり」
それは、あまりにも突然だったように思う。なんとなしに向かった駅前でのひと幕。
俺は、とある女に出くわした。
「元気だったー?」
ほとんど棒読みで喋ってるみたいな、感情希薄そうな声。
その主は、元クラスメイトの。
一年生のときだ。
たしか俺の二つ前の席だった。
「おー、元気元気。もう超元気」
同じく平淡な声で返して、適当な愛想笑いで場を繕う。へらりと笑んでみせてから、見下ろす先。
「お前、髪痛みすぎかよ」
プラチナまで色抜きされたその髪を、俺はぶっきらぼうに撫でた。
乱された髪を軽く直してから「きれいでしょ?」って、微笑する唇には艶やかなグロス。
こうして顔を合わせるのは、彼女が学校を辞めて以来初めてのことだった。