第6章 そういうの柄じゃないので(花巻貴大)
何もかも、どうでもよかった。
そんな風に自暴自棄を起こしていないと、まっすぐ前を見て歩くことすらできない気がしてた。
家に、着いて。
鼻先をくすぐった飯の匂いにすら嫌気が差して。
とりあえずシャワー浴びて自室に籠もってたら、フライパン+木ベラの重装備で特攻してきた母に「貴大! 片付かないからご飯食べちゃいなさい!」って怒られる。
「俺、今日食欲な「あらやだ風邪!?」
「……や、違えけど「ああ恋患いね?」
んんん母ちゃん。
そこはそっとしといてくれよ。
息子ビックリだわ、マジで。
どんだけ勘が鋭いんだか、さすが女は怖えというべきか。男子高校生の微妙かつ繊細なハートの機微なんて、母にとってはどうでもいいことらしい。
哀しきかな、俺の青春。
台所事情に完敗した俺は、母に踏み荒らされた失恋の痛みを引きずりつつ飯を食う。
味なんて、ほとんどしない。
まさにアレだ。砂を噛むってやつ。
俺の対面に腰かけていた母が、垂れ流されてるバラエティ番組を観て笑う。この人面白いわねえ、って、最近売れてる芸人を見やりながら。
俺は顔を上げることができず、ただ下を向いていた。左手に持った味噌汁のお椀が、やたらに重かった。
ズキリ ズキリ
胃のあたりが痛くてたまらない。