第5章 愛玩(及川徹の場合)
……──好きなのだと叫んでしまえれば、楽に、なれるだろうか。
少し歪んでいるけれど、優しい彼。
私は、及川さんに心を寄せている。
好き、なのだ。
どうしようもなく。
最初はただただ、彼の肩書きに驚くだけだった。テレビや雑誌に出ている彼を見るたび、眼前にいる彼と見比べて唖然としていた。
コートに立つ姿。
鮮赤のユニフォーム。
録画された試合を初めて観たときなんて『今ボールに触ったのが及川さんですか? 本当に?』と本人に質問したくらいだ。
『何当たり前のこと聞いてんのサ。こんな絶妙なトス、俺以外が上げられるワケないでしょ?』私が聞いたのは、そういう意味ではなかったのだけれど。
一緒にいるうち、少しずつ、見えてきた彼の内面。
ああ見えて実はお茶目で。
あとすごく負けず嫌い、すごく。
それから好きな食べものは牛乳パンだとか、本当はワインじゃなくてビールが好き、だとか。
世間のイメージを壊さないように生きるのは「ほんと、大変」これが彼の口癖。
過ぎし日のことも教えてくれた。
出身地のこと、地元を想う深い愛。
色んな彼を知った。
世論で語られている有名人としての彼ではなくて、本当の彼、及川徹を。
高校時代の友人と電話で談笑している彼を見たとき、ああ、このひとこんな顔もするんだって。
そう思ったことを、よく覚えてる。
少年の面影を残した笑み。
新しい彼を見つけるたびに、心惹かれていって。