第5章 愛玩(及川徹の場合)
「はは、ああそう、彼女じゃなければ何してもいいんだ?」
「っ、………」
「言ったよね。ご主人様を裏切るような真似したら許さないよ、って」
言葉でこそ笑ってはいるものの、声や顔は一切無感情のまま。温度のない瞳が私を射抜く。
なにも答えずに黙っていると、再度問われた。背筋がぞくりと震えるほど、優しい声で。
「ねえ、椿。忠誠心を捨てたペットには、──どんなお仕置きがお似合いだと思う?」
ポスッ、と渇いた音がする。
彼が何かを放り投げたのだ。
私の足元に落ちたそれを見て、呼吸が止まる。足枷のファーとよく似た色の機械。
小さな繭状の物体からは細くコードが伸びており、強弱調節用のリモコンに繋がっている。
これ、ピンクローターだ。
「どうすればいいか分かるよね?」
及川さんの冷淡な声が響いた。
宣告と、警告とを内包した声。
お前に拒否権などない。
もし拒絶をしようものなら、その喉元を絞めつけてすべてを奪い去ってやる。そう、瞳が語る。声なき脅迫。