第5章 愛玩(及川徹の場合)
そのタクヤと昨日、偶然再会したのだ。大学からここへ帰ってくる途中で。
偶然の再会に話が弾んで、ノリと勢いで飲みにいくことになって、そのまま「──ヤッたんでしょ? こいつと」
ビクッ、と肩が跳ねた。
「なんで、それ知っ、……!」
スマホを操作した及川さんが再度画面をこちらに向ける。光る、液晶のなか。
映っていたのは、ラブホのベッドでうたた寝をする私。無料通話アプリの画面だ。送信主はもちろんタクヤ。
添えられたメッセージは、お前の寝顔、相変わらず可愛いな。
「ばかな子。嘘が下手だね」
「どうして、……及川さん、昨日は木兎さんの家に泊まるから帰らないって」
「光太郎の子供が熱出したの。だから帰ってきたんだよ、お前の大好きなケーキまで買ってね。健気でしょ?」
なのに、ね、お前ときたら。
抑揚のない声で言われて、今度はサアと血の気が引いた。
及川さんの目が完全に座ったからだ。
今までずっと笑みを湛えていたのに、ついにそれが抜け落ちた。
殺されるかもしれない。
そんな恐怖さえ、──けれど。