第1章 I (can not) see you.(及川徹)
閑話休題。
ともかく、彼女と過ごす時間は居心地がよかった。
世間から求められる『及川徹』でいる必要がなかった。息が、しやすくて。
いつからだろう。
彼女を、愛おしいと思うようになったのは。
いつのことだっただろう。
自分のなかに生まれた醜い感情が、執着心だと気づかされた。
いつのまにか愛してた。
そんなこと言ったら、彼女は笑うかな。笑ってくれるならまだマシだけど、もし、拒絶されたりしたら──
「……俺、死んじゃうかもしれない」
ぼそりと独りごちた。
お話は現在へと戻る。
俺が言葉に含ませた意味を知ってか知らずか、彼女は優しげな声音でこんなことを言った。
「大丈夫。ひとはそう簡単に死んだりしないし、それに、徹は殺されても死ななそう」
最後のひと言は非常に心外だ。
たしかに心外なんだけど、その冗談めいた言葉に救われた気もする。
何もかもが、うやむやのまま、俺は彼女を抱く腕に力をこめた。