第5章 愛玩(及川徹の場合)
「……それで?」
宵闇の部屋に短い問いが響いた。
彼はその手に私のスマホを持っているようだった。
ふと灯った液晶が彼の表情を明かし、龍神日本一の美男と謳われる『及川徹』が姿を現す。
ああ、この顔はまずいやつだ。
すごく、すごく、まずいやつ。
人間には喜怒哀楽があるっていうけれど、それらの内のどの感情を抱いていたとしても、及川さんは笑う。
笑うのだ。
たとえ、哀しくても。
怒っていたとしても。
もともとよく笑う男性(ひと)だし、彼の見せる笑顔はどれも綺麗だ。まるで花が綻ぶようだと、以前観たバラエティ番組ではそう評されていた。
余所行きの笑顔は、たしかにそう。
でも、そんなの比じゃないくらい美しい笑顔を私は知っている。本気で怒っているときの及川さんの笑みは、甚く美しい。
同じ人間とは、思えないくらい。
こういうのを妖艶というのだろうか。
ていうか明日まで生きてられるのかな、私。既に生きた心地しないけど。