第5章 愛玩(及川徹の場合)
代わりに置いてある紙。
置手紙だ、恐らくは。
その小さな長方形を手にとって、彼の字で書かれた文章を黙読して、今日一番の大きな嘆息。
タクヤって、誰?
魂が抜けてしまいそうな溜息を吐いて、私は「──……最悪」そう呟いた。
*
あれから何時間が経ったのだろう。
黄昏時──
暗くなりはじめた部屋は、薄灰色。
「よく似合ってるよ、椿」
かなり近くまで寄らなければ相手の顔さえ確認できない明度のなか、聞こえた彼の声はやけに上擦っている。
愉しんでいるのだ、きっと。
もしくは算段を立てている。
自分の手を噛んだ愛犬にどんなお仕置きをしてやろうかと、私を嬲る方法を考えているのだろう。心底愉快そうに。
辛うじて見える彼の口許に携えられた微笑が、その証拠だ。