• テキストサイズ

(R18) ドリップ・ポルノ (HQ)

第1章  I (can not) see you.(及川徹)







「ねえ、何か嫌なことでもあった?」





 唐突に投げられたのは些細な問いかけ。俺は、少し面を食らって押し黙る。



 返答に困って「なんでそう思うの?」と、クエスチョンマークを返した。

 声が震えないようにと必死に堪えて、平静を装ってみせるけど、きっと彼女には見抜かれているのだろう。





「急に会いたいって言ったり、突然お風呂に乱入してきたり。今日の徹、ちょっと変」



「……そう、かな、いつも通りだけど」





 ちゃぷんとお湯の揺れる音がした。
 彼女はそれ以上、なにも問おうとはしなかった。



 深入りしない、させない。

 セフレの心の距離感なんてそんなものだ、たぶん。こうして肌を重ねられるほど近くにいるのに、心通うことは決してない。





 なんて遠いんだろう、と思う。





 思えば俺たちは出会ったときからそうだった。



 ボロックソに負けた試合のあと、無念やら悔恨やらに押し潰されそうになって向かったバーでのひと幕。

 自棄を起こして呑んだくれようとしていた俺と、物憂げな顔でカクテルを見つめていた彼女のお話。

/ 84ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp