第3章 ひとはその奇跡を運命と呼ぶ(松川一静)
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「……覚えててくれたんですね」
事後、愛された余韻が残る身体を起こしつつ、そう問うた。
小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取りだし、そのうちの一本を松川先輩に手渡す。
それだけで、こんなにも懐かしい。
「……忘れらんねえって。ていうか、お前こそ忘れてんのかと思ったよ」
こくりと喉を潤わせる仕草。
その横顔、その唇。
三年前となにも変わらない。
私が憧れて、どうしようもないほどに恋をした、松川先輩がそこにいる。
「忘れるだなんて、そんなこと、……出来ないですよ」
ずっと覚えていた。
ずっと忘れられなかった。
忘れたいと願っても、他の誰かを好きになろうとしても、どうしても先輩への気持ちが諦められなかった。
私は、私には、あなただけ。