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(R18) ドリップ・ポルノ (HQ)

第3章  ひとはその奇跡を運命と呼ぶ(松川一静)



 ──高校在学当時、先輩には彼女がいた。私が先輩に恋したときにはもう、どうすることもできなかった。

 恋人がいることを知ってもなお諦められなくて、彼を追いかけつづけた忘れじの日々。

 次第に近づいていく距離、心。

 略奪愛といえば美談に聞こえるだろうか。でも、あれは要するに浮気と呼ばれる関係だった。



 ある日、先輩が彼女と喧嘩をして、その弾みでキスをしてしまったのが終わりと始まり。

 私はそれでもいいと言ってキス以上の関係を望んだけど、彼は首を縦には振ってくれなかった。



 結局、私たちが恋人同士になることは叶わないまま。先輩が卒業して、なんとなく気まずくて疎遠になって。

 気付けば、私たちは大学生と呼ばれる年齢になっていた。





「……若かったですよね、私たち」



「だな。若いって恐ろしいわほんと」





 ふと、静寂が訪れる。



 どちらも何も話さない。
 何を話すのが最善なのか、分からないのだ。

 先輩がおもむろに真新しい煙草を咥えて、私は飲みかけの水にもう一度口をつける。



 どうしよう。

 何を言おう。



 考えあぐねて、悶々と悩んで、たっぷり十秒が過ぎた頃だったように思う。



 悠久のような沈黙が、破られた。










「……もっかい恋してみる?」










 燻らされた紫煙の向こうに見えたのは、焦がれて、追いかけつづけた、最愛の。









 了

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