第3章 ひとはその奇跡を運命と呼ぶ(松川一静)
止むことなく与えられる甘やかな痺れに、奥が爆ぜた。視界をぼやけさせる緑がかった霧。
まるで、カメラのフラッシュを焚かれたあとみたい。
「きもちかった?」
とびきり色めいた声音で問われて、私はうっとりと頷いた。
「そ、お前がイケてよかったよ」
乱れてしまった前髪を、大きな手がそっと梳いてくれる。
その心地よさに目を閉じると、睫毛に優しいキスが落ちてきた。それから頭上で、カサリ。無機質な音がする。
ヘッドボードの上に置いてあったアメニティの避妊具が、否が応でも脳裏に浮かんだ。
「直視できない、ってか。ウブだねえ」
なんだか気恥ずかしくて目を逸らしていると、からかうような声が飛んでくる。
「見ててもいいのに」
だなんて余裕たっぷりな低音のあとに、パチンとゴムの音。
鼻腔を突くラテックスに混ざって香るのは、葡萄、かな。子供向けのお菓子みたいな匂いがする。