第3章 ひとはその奇跡を運命と呼ぶ(松川一静)
私の返答を訊いた彼が、黒々とした瞳を綻ばせる。
男らしく節だった手で私の右頬を撫でて、独りごとのように「可愛い」とこぼして。
うなじに滑りこんでくる熱。
それが彼の手のひらの温度なのだと自覚するより前に、唇が奪われていた。
一度目のキスは、触れるだけの、柔らかな。
「──優しくしたるからな」
甘ったるい声が鼓膜を揺らす。
直後に、二度目の口付け。
その言葉のとおり優しく食むようなキスが一度、二度、彼が鳴らしてくれるリップ音と共に降ろされた。
それらをただ享受することしかできない私。知らず知らずのうちに固く結んでしまっていたらしい唇に、湿度をもった熱が触れる。
私の上下を割るようにして動くそれは、ぬるりと艶めかしく。歯列をなぞられて、ようやく彼の要求に気がついた。
恐る恐る、薄っすらと口を開く。