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(R18) ドリップ・ポルノ (HQ)

第3章  ひとはその奇跡を運命と呼ぶ(松川一静)







「───…………」

 細く、長く、ひとり嘆息する。





 クセのある黒髪ごしに煤けた天井が見えた。場末、という言葉がよく似合うホテルの一室だ。

 貼られた壁紙は退廃的な、赤。

 ところどころが剥がれかけのそれに目を焼かれて、思わず、強く目を閉じる。





「どした? 怖い?」





 吐息が触れる。

 睫毛が触れる。



 少しだけ瞼を押しあげてみると、そこには彼の笑み。余裕ありげなその瞳と、目が合った。




「……初めて、なんです」



 おずおずと言えば返されるのはまたも笑み。掠れた低音が「へえ、意外」と心底楽しげに囁く。





「いいの? 俺が食っちゃっても」





 艶っぽく言葉を紡ぐその唇が触れそうで、なのに、触れてくれない。

 もどかしい距離から降ろされた問いに、私はこくりと頷きを返した。

 

「……一静さんに、奪われたいです」


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