第3章 ひとはその奇跡を運命と呼ぶ(松川一静)
「一緒にきもちよくなろっか」
言葉が先か、行為が先か。
とさりと乾いた音がして、自分の背中がベッドに沈んだことを知った。
香るのはほろ苦いバニラ。
彼が好んで吸っている、銘柄の。
思い起こされる数時間前。
さんざめく乾杯とコールの嵐のなかで、声をかけられた。
新入生歓迎会に居合わせた男女。
彼は三年生で、私は一年生。
どこにでもよくある話だ。酔いが回った新入生を家まで送るという口実。行先は、もちろん家なんかじゃなくて。
そう──
こんなの、よくある話。