第3章 2人の距離3
指定されたのは個室の居酒屋だった。
個室に入り最初に見つけたのは空のグラスを持ってる輝さんと頭からビショビショのヒロト
慌てて仕事道具からタオルを取り出しヒロトを拭こうとするとその手をはたかれた。
「お前、またっ!」
ガタッと音を鳴らして立ち上がる輝さんを抑えて座らせた。
「俺の事捨てたんだろ?なら優しさなんていらない」
うつむき気味に言うヒロト
「そうだね。優しくしてごめんなさい」
私がそう言うとバッと顔を上げた。
「…私ね。ずっとヒロトに謝りたかった」
怒るつもりで来たのにこんな言葉が出た。
でも素直に気持ちを話すつもりだったから。
前はあったかもしれないけど今は怒りはない。
「私ね、多分ヒロトのことちゃんと受け止めてなかった。だからだよね。あんな事になっちゃったの」
私にはきっかけがわからないけどヒロトと付き合い始めた頃には暴力なんてなくて、ある日いきなりだった。
そして和さんとの事を思い出していた。
前に一度だけヒロトの事について言われた事があった。
それは一緒にベッドで何でもない話をしていた時
「俺さ、ちょっとわかっちゃうんだよね。由梨の元カレの気持ち」
そんな事を言われ難しい顔をするわたし
「いやさ、自分と両想いでさ、今までは相手も好きだって伝えてくれたのにそれがだんだんなくなって俺の事怖いって思われたらって。それに気づいちゃったらって思うと背筋凍るよね」
切なそうに一点を見つめて言う和さん
「それでもさ、一緒に居るなんて言われたら如何にかなっちゃうかもね。」
まあ、俺はそしたら自分から居なくなるけど。と続ける
一瞬目を瞑って和さんとの話を思い出して居た。
そしてヒロトをしっかり見つめた。
「正直ね。今も怖いよ?でもそれでヒロトを傷つけてるなんて思わなかった。言う事を聞けば大丈夫だと思ってたの。最低だよね。」
私がそう言うとヒロトが否定した。
「そんな事ない。俺は由梨のそういう所が好きだったんだ。」
ヒロトの言葉に首を振った
「違うの。…私本当はそんなに純情じゃないし、彼氏が居ても誰かと食事に行きたいし。自分の意思がちゃんとある。」
私の言葉を上手く飲み込めないという顔をするヒロト