第1章 2人の距離
トイレの個室に入ってとりあえず座るとドアの外にいる楓さんから出すまで出るな!と怒鳴られた。
そして少し咳払いをして落ち着かせる様に私に話しかける
「いつからなの?止まってるの」
そういえばいつからだろう。
「…半年?」
私の答えにはっ?!と楓さんが声をあげた。
そっか。私、約一年くらい、毎日中に出されてるもんな。
トイレから出ると楓さんにぎゅーっとキツく抱きしめられた。
「どうだったの?」
楓さんに検査薬を渡した。
もちろんそれは陽性を示したもので。
私、ヒロトの子供。出来たんだ。
楓さんはなんの反応のない私を見て泣いていた。
その時の私は泣く感情も表せられないくらい弱り切っていた。
「とりあえず、横になって。」
あの後楓さんに連れられて産婦人科へ。
見事に妊娠していて、食べれなかったのはつわりのせいだと言われた。
よく考えたらおかしいよねこの体型。
だんだん痩せていったのにお腹だけはポコっと異様に膨れている。
しっかりと前回の生理の日が分からなかったからおそらく妊娠6ヶ月くらいと判断された。
もう。産むしかない週数。
先生が母子手帳の事や今後の生活の事を話していてもあまり現実感がなかった。
ただ、その時一瞬だけどお腹がポコっとした気がした。
帰りは強制的に楓さんの自宅に連れて行かれベッドに横になる様に言われ素直に従った。
「…ねえ。由梨。その子。彼氏の子なの?」
それを聞かれてビクッとなるが頷いた。
「由梨のこと。そんなにしちゃったのも彼なのよね?」
ベッドの端に腰掛け優しく頭を撫でられた。
「…バカ。もう、お母さんなんだから。しっかりしなさいよ」
いつもしっかりしている楓さんが泣きながら言う。
そしてギュッと力強く抱きしめられた。
「…ごめんなさい」
抱きしめられた瞬間箍が外れた様に涙が止まらなくなった。
その後は2人で抱き合って思い切り泣いた。
大の大人2人がわんわん泣いた。
暫くそうしていたら泣き疲れて私と楓さんは抱き合いながらいつのまにか眠っていた。
次に目を覚ますと楓さんは隣に居なくてキッチンで何かを作っていた。
「あら?起きた?」
スープなら飲める?と言いながらお皿に盛る楓さん
何だか、お腹が空いてきた。
こんなのいつぶりだろう。