第12章 いただけないか(有栖川誉)
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店を出てから一言も会話がない。
それどころか…
「誉さん、歩くの、少し早いです」
「ああ、すまない。もうすぐ着くから我慢してほしい」
ガッチリ手を繋がれていて振りほどけない。
というより、どこに着くんだろうか。
お昼だから目立たない、派手なネオン街。
そんなところに入ってしまって、どこに連れて行かれるかなんて分からないほど鈍感ではない私は思わず誉さんに聞く。
「誉さん、さっきから変です!なんでそんなに怒ってるんですか?」
「………怒っていると言うよりは、嫉妬というものかもしれないね」
「……?」
「霧坂くんが大学時代のキミと面識がある、というのにどうも引っかかってしまう。人間だから過去があるに決まっているのにだ」
誉さんは私を見ず歩き続けてるけど、怒ってる訳ではないと聞いて少し安心した。
「はー…キミと出逢って、欲深くなってしまったようだ。
いづみくん、キミの初めてを頂けないか?」
「…私、初めてじゃないです」
「ハッハッハ!これからの話しだよ。ワタシが初めてだ、と言う物事を増やしてほしい」
やっと誉さんが笑ってくれた。
そんなこんなで、着いてしまったラブホテル。
お昼だから利用してる人もいないのか、廊下で掃除の人とすれ違う。
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