第5章 好きだから-転化~もう遅いかもしれないけど-
それから、どれくらいの間黙って、僕は佐奈を抱きしめていただろう?
でも、佐奈がまだ何か言いたそうなのが分かったから、いつまででも、僕は待っていて、そうして。
「……き…」
零れた佐奈の声に、僕は自分の耳を疑った。
今までよりずっと小さくて、涙声が震えてて、それでも僕の耳は佐奈の声を聞き漏らさない。
だけど一瞬、聞き逃したかと…違う、そうじゃなくて、聞き間違えたんじゃないかって、思った。
だって…そんなことが…って思った。
でも…でも……。
僕の体が、さっきよりも震えた。
「佐奈…いま、の……」
本当に?
本気で?
確かめながら、だけど『違う』って言われるのが怖かった。
怖いけど、だけど…だけど……。
「佐奈……」
僕の声が震えてる。
佐奈が、そんな僕を見上げながら、涙を零して…言った。
「成体前の子だし…生徒だから。私は先生なんだから、そんな風に思っちゃいけないって、ちゃんと分かってたのに。それなのに…っ」
最初はただびっくりして…瑠衣が瑠衣じゃないように見えて。
それが怖くて…何より、こんなのはいけないことだって必死にもがいた。
なのに驚いたり、怖かったりしながら、『好き』『愛してる』って何度も何度も苦しそうに繰り返す瑠衣に抱かれることに嫌悪を感じていない自分に気づいて、自分で自分に驚いた。
『どうして?』とか、『こんなこといけない』って言いながら、嫌じゃない…なんて……。
こんなの…いけない。
こんなのは、良いはずないのに。
なのに、それどころか……。
「私も…瑠衣の…こ、と…っ」
すごく戸惑ってるみたいに…迷子になったみたいに、佐奈は話してくれた。
僕に抱かれながら、佐奈が何を言おうとしてくれてたのか、馬鹿な僕は初めて知ったんだ。
「うん」
けど僕は、そうやって頷くだけでいっぱいだった。