• テキストサイズ

擬人カレシ~白兎・三人目の生徒編◆裏◆~

第5章 好きだから-転化~もう遅いかもしれないけど-


「佐奈……?」
「…っ、ばかっ、瑠衣のバカ!」
「…………」

ぽこ、って、また背中にグーが降ってくる。
でも何だかそれが嬉しくて、佐奈が可愛かった。

「途中で私…何度も言おうとしたのに…それなのに……っ」
「え?」
「瑠衣…全然、聞いてくれないんだも…っ」

最後まで上手く喋れないみたいに、しゃくりあげながら、佐奈は僕を叩くのをやめると、僕の背中に回した手に力をこめてさっきよりも強く、自分から僕に抱きついてくる。
僕も、無意識にそんな佐奈を強く抱きしめた。
そうしたら、腕の中で佐奈がもがくみたいに動いて。
だけど、逃げようとしてるわけじゃないのは、僕にも分かったけど。

「佐奈……?」

気になって彼女の名前を呼ぶ自分の声が何だか妙に震えてて、自分でも驚きながら、だけど自覚してた。
嫌われたくないって、思ってる僕がいる。
あんなことしておいて、それでもまだそんな風に考えてる、馬鹿でどうしようもない僕が、まだ僕の中にいるんだ。

嫌われても…それでも、って、心を決めたはずだったのに。
だから声が震えて、気が付いたら、佐奈を抱きしめる腕も、少しだけだけど、震えてるのを自覚した。
何か…情けない。
どうかこの震えが、佐奈に気づかれませんように……。

そんなことを祈るような気持ちでいる僕を、いつの間にか佐奈が見上げていて、気が付いて、何となく目が合ったら、佐奈は逃げるように目をそらして、そのまま…また顔を伏せちゃったけど。
それからすぐに、佐奈の声が聞こえた。
さっきまでの勢いとは違う、最初は小さく掠れた声で……。
まるで、何かを迷ってるみたいに。
だけど…確かに……。

「私は…せんせいで…るいは、せいと…で……」
「…………」

そうやって話し出した佐奈の声を、僕はもう、遮らなかった。
大好きな佐奈。
だけど今は、昨夜みたいに抱こうなんて考えられなかった。
佐奈が話したいことを、ちゃんと聞いてあげなきゃと思った。
だから、僕はただ黙って佐奈を抱きしめた。
/ 50ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp