第4章 好きだから-貪食-
「まさか……」
また零れた声は、自分のものなのに、妙に聞きなれない低い声。
まるで……。
「男みたい」
いや、男なんだけどさ。
だから佐奈のことだって…我慢できなくて色々あんなこと、しちゃったりしたんだけど……。
僕は、自分の体を見下ろした。
今の今まで気が付かなかったけど、そういえば、昨日までより床が遠い。
ってことは、背も伸びたんだ。
手も何だか…煉や厳みたいに、ごつごつしてる。
腕も足も…長くて大きくなってるのが分かるし。
胸板も…体全部が、昨日までの僕とは違ってる。
成体前に擬人化した獣は、ある日突然、成体に変化することがあるって研究所の授業で聞いた。
だから前兆を感じたら、街中でいきなり成体になったりしないよう注意するように、とか、そんなことも言われたけど。
「前兆……?」
そんなものあったっけ?
考えて、僕はちょっとだけ思い当たった。
「そっか。そういうことだったのかな」
そういえば、最初に比べて楽に佐奈を抱いて歩けるようになってた。
毎日抱き上げてるから、いつの間にか慣れたのかな、くらいに思ってたけど、あれがもしかしたらそうだったのかもしれない。
前兆っていうには、かなり分かりにくいけど。
でも家の中で成体になったのは、まあ、良かったのかもしれないな。
そんなことを考えながら、裸のままの自分をまじまじ見下ろしてた僕は、だから、気が付かなかった。