第1章 怪我【佐久間咲也】
『はい、これでよしっと!』
咲「ありがとうございます!」
薬箱からテーピングを出して、
咲也くんの指を丁寧に固めた。
咲「あの、カントク」
『なあに?』
咲「なんでオレが突き指してるって
思ったんですか??」
『今日咲也くん体育ある曜日だよね。
毎週きまって体育の話が出るから、
今日なら怪我しててもおかしくないかな
って思ったの』
咲「オレたちのこと
よく見てくれてるんですね!!
でも、それだけですか?」
『ううん。それとね・・・』
咲「はい」
『本当に指がつっただけなら
咲也くん、なんでもない、なんて
言わないと思ったから』
推理と言えるものではなく、
危険なことをするには
可能性の低いただの憶測を、
申し訳ないと思いつつも口にした。
咲「オレ、まだまだですね・・・。
カントクに不信感を
持たせてしまいました。
もっと演技上手くならなきゃ・・・」
でも咲也くんには可能性とか
そんなごちゃごちゃしたものは
見えていないようだった。
ただひたすらに
演じることに対してまっすぐで、
私は少しほっとする反面
心配もした。
手当したばかりの薬指に触れながら告げる。
『そうだね。でも、偽るのはよくないよ。
特に、いつかこの薬指に指輪をはめてくれる人には、いい演技は見せても完璧な偽りは絶対にダメだよ。
相手はきっと心配になるから。
そこはちゃんとメリハリを、ね』
アドバイス。
素直な彼が
間違った方向へ進んでしまわないための。
それ以外の何者でもなかったのだ。