第2章 出仕
ケイネスト王子は愕然としていた。もう一人の幼馴染が予想外の成長を遂げていたからである。謁見の儀の始まりから王子の思考は固まったままで、祖父王と幼馴染の会話は全く耳に入っていない。謁見の儀が粛々と執り行われるのをただ見つめていた。
「グリュネワルド国王アインザルト陛下におかれましては、ご健勝のことお慶び申し上げます。此度は魔法学研究の為、王宮への出仕をお許しくださいましたこと感謝の言葉もございません。このユーファミリア•ハクラシローメ、勉学に励み魔法学の更なる飛躍の為誠心誠意尽くす所存にございます。若輩者ではございますが、御指導御鞭撻の程よろしくお願い申し上げます」
「よくぞ参られた。国王陛下は御壮健か」
「はい、我が師リュートラッドにおきましては恙無く過ごしております」
「恙無く、か……。長旅でお疲れであろう。夕餉の席を用意するので一旦下がってゆるりとなされよ」
「恐悦至極に存じます、陛下。では御前を失礼仕ります」
白い魔法士服を着た若者が跪いたまま垂れていた頭を上げる。サラリ、白銀の長く美しい髪が揺れ落ちた。立ち上がりながら髪をさりげなく耳にかけ、国王に向け恭しく一礼する。そのまま脇に控えていた王子の方へ視線を移すと、固まったままの王子と目があった。ふわり、と微笑んで王子にも一礼し、退出する。
「嘘、だろう……?」
6年前、ハクラシローメ国王リュートラッドの下で一年間の魔法研修を終えて以来の再会に、言葉を無くす王子。美しい白銀の髪と涼やかなアメジストの瞳に僅かに面影が残っているものの、あの頃自分と一緒にイタズラばかりしていた少年の変貌に二の句が継げずにいる。
腰を隠すほどの長い白銀の髪を靡かせて颯爽と謁見の間を退出する三人目の幼馴染は、豊かな胸が柔らかな曲線を描く美少女になっていた。