第2章 出仕
夕食会は恙無く終わり、次は歓迎の舞踏会だ。充てがわれた控えの間でユーファミリアは一人、気合いを入れ直した。形式上とはいえ国王である師リュートラッドと養子縁組をした以上、曲がりなりにも自分は一国の姫である。師の顔に、そして祖国に泥を塗るような事は何があっても避けなければならない。そう、何があっても、だ。
姿見の前に立ち、もう一度爪先から髪の一筋に至るまでチェックを入れる。出仕にあたって師が作らせた白のドレスにはシワ一つ無い。自分で結った髪には麓の村の友人が作ってくれた髪飾りが、胸元には母の形見だと言うブローチが光っている。シンプルだが見劣りはしないだろう。鏡の中の自分へ笑いかけ、小さな声で呪文のように「大丈夫」と呟く。
トントントン
と、そこへ軽やかなノックの音が響く。もう時間かと思いドアを開けると、そこには意外な人物が待っていた。
「失礼致します、ユーファミリア姫。そろそろお時間ですのでお迎えに上がりました。本日は殿下が是非エスコートをとの仰せでございます」
「ユーファミリア姫、今宵は是非このケイネストに初エスコートの誉れを戴けますか?」
「先導はこのジーンライト・カイナンが勤めさせていただきます。さあ、こちらへ」
芝居がかった台詞に一瞬呆気に取られたものの、そこは一年を共に過ごした幼馴染、意図するところを立ち所に飲み込んでユーファミリアは淑やかに傅いた。
「これはこれは、殿下のご足労をいただき光栄至極にございますわ。どうぞ、良しなに」
恭しく差し出された右手に一つ口付けを落とし、ケイネスト王子は三人を見渡した。頷き合う四人。静かな闘いの火蓋が切って落とされた。