第2章 出仕
「どうなさいましたか、殿下。やけにご機嫌ですが」
「トールか。なに、今日からアイツが宮廷に出仕すると聞いてな」
グリュネワルド王国の王太孫、ケイネスト王子には幼馴染が二人いる。彼等は物心ついた頃には既に近習として、友として王子の側にあった。成長し王子が国王の補佐として政の一端を担うようになると、彼等もまたそれぞれの得意分野で王子の両翼を担ったのである。トールと呼ばれた長身の青年は、その内の一人、トール・フラスクエア。現グリュネワルド国教会大僧正の孫である。ケイネスト王子より一つ年上の19歳だが聡明で見識深く、国王からも王子からも篤い信頼を得ていた。
「アイツ、と申しますと…?」
「ユゥだよ。導師と正式に養子縁組をして今日から我が国の宮廷に出仕することになっているだろう」
「久しぶりの再会でございますね。ですが殿下、また二人でイタズラを仕掛けて回るのはお控えください」
「おいおいトール、そんな子供扱いはやめてくれ。お前とは一歳しか違わない」
二人が軽口を叩きあっていると、入口からノックの音が聞こえてきた。
「どうした」
「申し上げます殿下。カイナン中将が参られました」
「ジーンか、入れ」
「失礼致します」
ドアを開けるメイドに軽く手を振り、がっちりとした体躯の青年が入室してくる。彼の名はジーンライト•カイナン。王子の両翼を担う双璧の内のもう一人で、カイナン公爵の嫡子である。剣技と魔法を融合させた魔法剣の名手で、若干二十歳でありながら軍では中将に任じられている。普段は穏やかだが有事には率先して前線へと赴く勇猛な若手将校として、国王と王子の信も篤い。
「殿下、謁見の儀の準備が出来ました。謁見の間へお越しください」
「ああ、やっとか。待ちくたびれたぞ」
「進行に遅れはありませんが」
「ジーン、殿下はもう一人の幼馴染との再会を心待ちにしておられたんです。それくらい察しなさい」
「それは失礼仕りました。すっかり見違えてしまったのできっと殿下も驚かれますよ」
「お前達……まぁいい、楽しみにしているのは事実だ。立派になったユゥの晴姿、しっかり目に焼き付けようか」
仲の良い友人達の表情で三人は謁見の間へと向かった。