第1章 恋は黄昏と共に
〇〇ちゃんはというと、真剣な顔して夕日を眺めている。
「あのさ、冗談よ?かるーいジョーク」
「そっか…わたし決めた!」
「へ?」
〇〇ちゃんの表情が急に明るくなり、眉間に縦皺を寄せてた眉の距離が離れ、筆をパパッと動かし始めた。
赤、オレンジ、黄色を水に溶かし、パレットのまっさらだったスペースに色が混ざっていく。
そして、食べ頃なみかんと完熟トマトの間を取ったような色(俺の表現力じゃこれが限界)が白い画用紙に吸われ、鮮やかに白を染めた。
「夕焼けの色…こんな感じでどうかな?」
「いいじゃん!うまそー!」
何それと言ってまたコロコロ笑い出す。
つまんねーこと言ってもいちいち笑ってくれる。
——それだけで、なんでこんなにも嬉しくなるんだか。
「あのね、昼の白い太陽を浴びる川を描こうとしてたの。でもやめた。おそ松くんがアドバイスしてくれた夕暮れにする」
「つかさ、俺テキトー言っただけなのにいいの?即採用で?」
「うん!言ったでしょ?思い出を残しておきたいって」
悲しい予感を連想させるには、分かりやす過ぎる言葉だった。
「なぁ…それって」
「でも、もう今日はおしまい。お腹を空かせて待ってる子がいるから」
そう言うと、〇〇ちゃんは画材をリュックに押し込み、ジーンズに付いた埃を払いながら立ち上がった。
俺にそれ以上何も言わせてくれないとかさ。
ずるい。
〇〇ちゃんは、ずるくてどこか掴めなくて、俺の気持ちをおいてきぼりにする悪い子だ。
「じゃあまたね。おそ松くん」
夕日を浴びた彼女の笑顔が寂しく見えたのは、きっと俺が寂しかったからだ。
憧れだけだった筈が、いつの間にこんな惚れちゃったんだろう。