第1章 恋は黄昏と共に
(別に無職童貞を隠してるワケじゃないけどさ…)
思い返せば、俺と〇〇ちゃんは自分の身の上話を何一つ話したことがなかった。
分かったことと言えば、ウサギを飼ってるってだけ。
年齢、学歴、仕事…アイデンティティを形成する上で欠かせないもんを全部取っぱらい、俺らは他愛もない会話のみで繋がっていた。
でもその距離感が妙に心地よくて、もっと話したい、もっと一緒にいたいって思うようになっていった。
まぁ、俺が惚れっぽいってのもあるけどな。
チラリと川へ視線を向ければ、夕焼けが反射して茜色に染まっている。
「あのさ、さっき主役が決めらんないっつってたけど、夕日を主役にしたら?」
「どうして?」
「俺のパーカーと色似てるから。あの夕日を俺だと思って描いてよ」
と言って、パーカーの袖を引っ張って見せる。
あれ。俺今さりげなく凄いこと言ったよこれ…。
すげー積極的に出ちゃったんじゃない?