第1章 恋は黄昏と共に
初めてのキスは、唐突すぎて何も分からなかった。
「はい、チューしました」
唇を離し俯く〇〇ちゃん。
長い髪が邪魔をする。
〇〇ちゃんの顔を隠す。
「なぁ…俺、俺さ、〇〇ちゃんが…」
言いかけて声が喉の奥で止まる。
最後まで言わせてくれないとか、やっぱり〇〇ちゃんはずるい。
震える肩を、そっと抱く。
「——泣くなよ。泣くくらいなら俺と一緒にいろ。どこにも行くな」
「ごめん…もう決めたの…もう、東京にはいられない、辛くて…仕事辞めちゃって…だから帰るって決めて……ごめん…なさい…ごめん……っ」
予感が確信に変わる。
心の準備なんか全然役に立たなくて、ただ、胸の奥が重くて苦しい。
「でも、わたしね…ずっとずっと、おそ松くんのこと忘れないよ」
そしてちゃんと告白する前にさよなら宣言するな。
せめて俺を振ってから言ってよ。
「…俺も忘れない」
「ずっと…好きだから」
「っておいっ!!??」
「な…っ、何!?」
「……そーゆーのはさ、俺から言わせてって」
てか、涙で遮られなければ俺から告白する予定だったのに。
「…俺も、ずっと好きだ」
腕に閉じ込めた拍子にカランと筆が落ちる。
女の子を抱きしめたのなんて初めてだった。
ましてや「好き」と伝えたことも。
あぁ、あったけー。
抱きしめた温もりが、愛しい涙が、心に染み込んでいく。
なんでこんなに、〇〇ちゃんを好きになっちゃったんだろう。
胸の奥が熱くなるんだろう。
このまま全部、俺のものになればいいのになんて、身勝手な願望が溢れ出す。