第1章 恋は黄昏と共に
はーーっと感嘆の声を漏らしながら描かれた桜を見てると、〇〇ちゃんは筆の先で絵の一点を指した。
「ねぇ、ここの緑は何だと思う?」
若葉のような淡い緑が、するんと花びらと枝の間を通り抜けるように描かれている。
「はっぱ」
「違う」
「かぜ」
〇〇ちゃんに目をやると、フフンと得意げな顔で首を横に振っている。
「だからさ、センスねーから分かんないって」
「おそ松くんの口笛でしたっ」
「え?俺の口笛こんなオシャレ?」
「オシャレって言ってくれてありがと。こういうのはフィーリングが大事なの」
「あーフィーリングカップル的な」と言うと、「古い」と一蹴されて終わった。
「わたし吹けないから、さっき楽しそうに吹いてたの聴いてたら羨ましくなっちゃって」
隣から空気の漏れる音が聴こえだす。
横を見れば、可愛い唇を尖らせ必死こいて口笛を吹こうとしている。
…いやぁ、たまんねー。誘ってんだろそれ。
「ね、また口笛吹いて?最後に聴かせて?」
最後にとかさ、さりげなく言わないでくんねーかな。
そうやって別れを匂わすなよ。
「ずるいんだよ」
「…え?」
「なんでもない。別に吹いてもいいよ?お礼にチューしてくれんなら」
半分本気、半分冗談。
だったのに。
風が桜の花びらをフワリと舞い上げたその時、視界が影に覆われた。