第3章 貴族の朝食
調理室に着くとすでにアベルさんが料理を始めていた。
ななし 『アベルさん、おはようございます!』
するとアベルさんはバツの悪そうな顔をした。
あれ?私来ちゃダメだった?
ななし 『なにか手伝おうかと思ったんですけど…。必要ないみたいですね、失礼しました。』
私はそのまま調理室を出ようとするとアベルさんに呼び止められた。
アベル 「ま、待て!俺は別に手伝って欲しくないわけじゃなくて…その、本当に来てくれるとは思ってなかっただけで…だから、手伝ってくれるのはとても嬉しい…。」
照れ隠しなのかツンデレなのか、とにかくかわいい。
男らしいとこもあるけどたまに見せるそういうとこがキュンとくる。
ななし 『よかった…。あの、何したらいいですか?』
アベル 「じゃあそのお皿とって。これ乗せるから」
私は言われた通り皿を取って渡した。
そして洗い物がたまっていたのでそれを片付けることにした。
洗い物をしているとアベルさんが話しかけてきた。
アベル 「あの、昨日はごめん…。いきなりあんなことして…。」
あー、あれか。
てかあれって吸血鬼の本能的な?
血を見たらもう抑えがきかない的な?
まぁ、それより傷が消えたのが恐怖だったけど。
傷が消えたのも吸血鬼の力なのかな。
ななし 『いえ、大丈夫です。おかげで傷も消えましたし。あれって吸血鬼の力なんですか?』
アベル 「え!?なんで俺が吸血鬼だってこと知って!?」
ななし 『あ、えっと、あのあとアッシュさんに色々聞いたんです。皆さんのことも私がここへ連れてこられた本当の理由も。だからアベルさんの昨日の行動、びっくりしたけど、今ではちゃんと理解してますから、安心してください。』
アベル 「そうか。ありがとう。あ、傷が消えたのは吸血鬼特有の唾液のせい。」
やっぱそうなんだ。
傷を治せるなんて魔法みたいだな。
なんて思いながら洗い物にまた取り掛かった。
が、すぐにまたアベルさんが口を開いた。
アベル 「なぁ、お前はいつ俺を…アベルって呼んでくれるの…?」
驚いて振り向けばそこには顔を真っ赤にしたアベルさんがいた。
アベル 「自己紹介の時、言ったのに…。」
そうだったっけ。
忘れちゃった。
ななし 『ごめんなさい、忘れてました…』