第1章 天泣
物思いにふけりながら、テーブルを拭いていたらカランカランと出入り口から音がする。
ふとそちらを向けば、1人の女の人。白いワンピースが出入り口を閉めた時の風に煽られてふわりとゆれた。
例の変わったお客さんだ。
「いらっしゃいませ」
ニコリと微笑むと、その人は柔らかい笑みを灯して俺を見つめてくる。
「こちらのお席ですね?」
その場にいた事もあって、そっと椅子をひけばニコリと微笑んでくれた。席に着くのを見届けた後で、俺は注文をとる。
「ご注文はいつものでよろしいですか?」
俺の問いかけに、また嬉しそうな顔をしてコクリと頷く。
このお客さんは決まって雨の日に現れる。
丁度1ヶ月、2ヶ月前からだったか、それくらいからこうして店を贔屓にしてくれている。
カウンターに戻って、赤いランチョンマットとフォークとスプーンを持っていく。
ささっと慣れた手つきで二人分並べてから、少々お待ちくださいと行ってカウンターに戻る。
「ミートソースのパスタとコーヒーのセット、サーモンのクリームパスタと紅茶セットで二つともホットでお願いします」
俺がスラスラと先輩に注文を伝えると、コトンと目の前に二つの皿が置かれた。
「もうできてるよ、わかってたから先に食器類持ってったんだろ?」
「さっすが先輩、んじゃ持ってきまーす」
両手にパスタを持って、お客さんの元へ運んでいく。
これがいつものお決まりで、この人の頼むメニューだ。
サーモンのクリームパスタを女の人の前に置いて、もう一つのミートソースパスタを誰もいない席に置く。
「お飲み物は、食後でよろしかったでしょうか?」
そう聞くと、コクリと頷くのを見届けてまたカウンターに戻る。