第1章 天泣
カランと扉の上につけられた、銅製のベルが音をたて鳴り響く。
「うわー、結構降ってきたなぁ」
晴れた空から降ってくる雨は、いつもの雨と少し違うようで神聖な感じがする。
太陽の淡い光を受けた雨粒は、1粒1粒がキラキラと反射してまるで光が降ってきてるみたいだ。
いつもは横に避けている、猫と葉っぱをモチーフにした傘立てを扉の近くに置いた。
もうずっと使われている為か、少し錆びてしまっている傘立てが重厚な木の扉と同調している。
そこに雨が加わると、より一層雰囲気が増す。ちょっと入りにくい昔ながらの喫茶店になってしまうのがたまにキズかもしれない。
そんな所も嫌いではないけど、俺のキャラで言ったら兄弟全員吹き出すだろうな、なんて思いながら置いた位置を1回確認して、店内に戻った。
カウンターの中に入って、ゴソゴソとふきんを取り出して向かうのは1番テーブルだ。
変わったお客さんが座る指定席。
固く絞ったふきんで、木目調のテーブルの角から拭いていく。
別にこんな事しなくたって綺麗なんだけど、それでもその人が来る時はいつも拭くようにしている。
角を拭き終わって、次に真ん中を上下に空間が出来ないよう拭き取った。
ジャズ音楽が聴こえる中で、かすかに雨音が窓を叩く音が心地いい。
テーブルを拭く時は、窓が近いから雨音が耳に入りやすい。
人は雨を嫌うけど、ここで務めるようになってから俺は雨音がよりいっそう好きになった。
雨音を聴くためにわざわざテーブルを拭きに行っているのかもしれない。
コンコンと窓を叩く音がノックの音のようで、これからそちらに向かいますと言われているような気がする。