第7章 洒涙雨
そんなありふれた日常が、当たり前のように過ぎて。兄弟がハンカチの話題を忘れてしまった頃だ。
「いやっふー!今日は勝っちゃった!ひゃっふー!」
この日はパチンコで勝って上機嫌で、ちょっと小躍りしながら遠回りしていた。
いつぞや来た道に迷いこめば、重々しいドアが目に入る。
「ここ」
ピタリと足を止めて、そのドアを見つめればふっと笑ってしまった。
手書きの分かりにくい文字で書かれたそれを見ながら、数秒にらめっこする。
「アルバイト募集...ね」
いつもならそんな広告目にも入らないけれど、でも今日はちょっと違ったみたい。俺は迷うことなくドアのノブに手をつけて引く。
「すんませーん、アルバイト募集の広告今みたんですけどー、詳細教えてくれませんかー?」
俺の一言にピクリと反応して、こちらをくるりと振り向いたのは頑固そうなおじいちゃんだ。
「お前さん、名前は?」
「松野 おそ松でーす!」
元気よく挨拶、これが基本だとばかりにはりきってみたけど結果は残念ながらこうだ。
「語尾を伸ばすとは、ふざけとるんかぁぁあ!!」
「い、いえ、ふざけてなんかいません!」
何かしらおじいちゃんの地雷を踏んでしまったらしく、爆発した。あっ、これ完全に雇って貰えないと思ったらパチンコ仲間の松岡さんがそこに居合わせた。
「マスター、この子こんなだけどいい子なんですよ。どうです?1回雇ってみたら」
「そうなんか?わしには悪ガキにしか見えんが?」
どうして悪ガキだった事がわかったのかはわからない。でも松岡さんナイス!なんて思っていたら、ギランとおじいちゃんことマスターの目が光り輝く。
「わしが根性叩き直してやるわぁぁ!!覚悟しろ、この悪ガキがぁぁあ!」
「ど、どしぇぇぇー!!」
それから1ヶ月間ほど、言葉遣いを矯正された。
でも、なんだかんだと飯をつくってくれたりと世話をやいてくれるマスターに支えられて、俺はいつの間にか脱ニートしていた。