第6章 送り梅雨
手術の日が過ぎ去り、包帯をとる日がやってきた。呆気ないと言えばそう、だけど刻々と過ぎていく日々は私を待ってくれることない。ただ、月日に流されていく。
しゅるしゅると外されていく包帯が下へ落ちるたびに、明るい光が瞼の外に見える。
「大丈夫です、ゆっくり開けてください」
そう言われてゆっくりと目を開けた。
少しボヤけた景色、初めて見る色。
病室の味気ない色を染める光の先を見つめる。
「あぁ、あの人の色だ」
涙が出た...。
流れるだけだった月日に初めて染まる色。
窓から見えた光は、穏やかでそれでいて温かくて、彼にそっくりだ。それ以外は目に映らないほど、私は赤を見つめた。
「見えますか」
「はい、見えます」
短い言葉のやり取りは震えていて、堪えようとしてもあふれだす涙と共に、一つの感情があふれだす。
彼に会いたい...。
名も知らぬ、雨の日のあの人に会いたい...。
つのる想いは雨のように、温かい涙になって私をぬらしていく。
あぁそうか、織姫と彦星の話でこんなに切なくなったのはきっと、きっとそれは、2人の気持ちがわかるようになってしまったからだ...。
帰ろう、願う事ならもう1度彼に会うために...。
それが叶わない願いだったとしても...。