第4章 怪雨
あぁ、やだやだ、若い女の子にあんな罵声を浴びせるなんてさ。そんな事を思いながらそのまま進もうとした。ああゆう面倒事には関わらないのが1番だ、なんて思ってるのにチラチラと見てしまう俺は馬鹿。
ふと目線を下にやれば、罵声を浴びせてるおじさんは手にスマホを持っていて、足元を見れば黄色い床のど真ん中にいた。
ポリポリと頭を掻きながら、少し様子を見ているつもりだったのに女の子が謝ろうとするのをみた瞬間、俺の足は勝手に進んでた。
俺の一言に詰め寄ってくるおじさん、少々強面の顔に内心ビビってたけど俺も助けたからには、ここで引き下がるわけにはいかないよな。へらへらしながら言葉を発するけど、本当は内心かなりビクビクしてる。この世で1番怖いのは、本気を出したおじさんだ。
なんとか追い払った後に、ふうっと肩の荷を下ろす。正直無茶苦茶怖かった。オロオロしている女の子のかわりに、白い棒を雨の中から探し出す。拾い上げた道しるべは、濡れてしまっていた。まぁ、雨の中放り出したら濡れてしまうのも当然だ。
持ち手部分だけなんとかしようと、自分の体のあちこちを叩いてみたけれど、ハンカチという名のたしなみもなく途方に暮れる。こんな時チョロ松かトド松がいたらってふうっとため息をつく。
叩く手が腰あたりに触れると、ツナギの袖をみつけた。俺はツナギの上半身を腰あたりでくくりつける癖があるからこれでいいか。濡れてもたかがしれてるし、濡れた部分が肌につくわけでもないし丁度いい。赤い袖口が少し濃くなって、かわりに白い棒から水滴が消えた。
「災難だったね?大丈夫?」
近付いて声をかけると、ビクッと震える女の人。どうやら驚かせてしまったようだ。
「ごめんごめん」
驚かせたことを謝って、とりあえず道しるべを渡そうとする。そしたら口笛とポツリと聴こえて、ああっと思った。たしかに口笛は吹いてたけど、どうして今その話が出たのか皆目検討がつかない。
「綺麗な音だったから」
目の見えないその人は、困ったように笑った。